(2) コレステロールについて

 

 がんとの闘病生活の中で、柔軟で弾力のある血管を維持することは体力を保ち、免疫力を上げ、がんとの闘いに有利になることに繋がる思います。 血管中に悪玉コレステロールと中性脂肪がどんどん増え、更に糖分が多くなれば血液はさらさらと流れなくなり、酸素も減ります。余分な糖分はがんのえさになるばかりではなく、中性脂肪を増やし血管をぼろぼろにする動脈硬化症を促進します。

 がんは告知されてから終末になるまで期間がかなりあるのが普通で、対策を考える期間がありますが、血管病の場合短期間で死亡する場合が高く、重度の後遺症で苦しむ場合もあります。

 私の家系では、母は肝臓がんで92歳に亡くなりましたが、父と父方と母方の両方の四代くらい遡っての男性はほとんど60歳前後で脳疾患で亡くなっています。

 4年前に前立腺がんの全身転移により臓器不全で73歳で亡くなった兄も50歳代と70歳近くで軽い脳梗塞を起こし、これは命を縮めた要因のひとつでした。

 こういう背景もあって私は中年の頃からコレステロールと中性脂肪には関心がありました。40歳代からの健康診断の記録がありますので、これらの値をもとに何が言えるのか、言えないのかを探っていきたいと思います。

 

 脂質栄養学会が2010年に発表した「コレステロールは高めの方が長生きできる」という説は新聞・雑誌・テレビ大きく取り上げられ、多くの人々も製薬会社と関連する学会が一緒になってコレステロールを下げる薬をたくさん売るために「コレステロールは危険だ、低めに下げるべきだ」と言っていると受け止めました。

 これに対して、動脈硬化学会は「世界的に大規模な疫学調査や介入試験がいくつもあって信頼に足るエビデンスが存在するので、コレステロールの基準値を下げる必要はない」と反論、この騒動で一番困ったのは治療している患者さんたちの不安と動揺、そして患者さんを治療する最前線の医師たちがその騒動に巻き込まれて患者さんへの説明に苦労されたことでした。

 私も最初は「高めがいい」派でしたが今では「低めがいい」派になっています。今日はどちらの学会にも入っていない参考文献の①の著者桑嶋医師と横手医師共著を中心に要点を紹介します。

 

 血管が詰まったり、破れたりする血管病の原因は、高血圧・高血糖・塩分の過剰摂取・強いストレスなどによって血管の内皮に傷がつきそこにLDLが入り込み、更に活性酸素により酸化されて酸化LDLとなり、そこに駆け付けたマクロファージが次々と貪食しその結果血管内部の壁にアテロームが盛り上がってきます。これが血管を塞いだり破裂して血栓ができ、それが血管内を漂い脳梗塞や心筋梗塞の原因となります。この辺のことはランチの会の皆さんは十分に分かっておられることだと思います。

 

 そして、高いから心配だ、低いから大丈夫だと簡単に考えないで、男女の違い、年齢による違い、危険因子の数の違いによって同じコレステロールの値でも、治療すべき人、警戒すべき人、ほっといてもいい人といろいろなケースがあるようです。

 特に閉経前の女性はLDLが多少高くてもHDLがある程度高ければそれほど心配する必要はないようです。

 

 日本ではコレステロールの管理目標は次のようになっています。

                       (単位はmg/dl)

 

                 総コレステ            悪玉コレステ

(1)冠動脈疾患の既往症の人  180未満      100未満

(2)冠動脈疾患のない人

 ①主要危険因子の数  0   240未満    160未満

 ②主要危険因子の数  1   220未満    140未満

 ③主要危険因子の数  2   220未満    140未満

 ④主要危険因子の数  3   200未満    120未満

 ⑤主要危険因子の数  4以上 200未満    120未満

 HDLはすべて40mg/dl以上、中性脂肪は全て150mg/dl未満

 

 危険因子 ①男性45歳以上、女性55歳以上  ②高血圧 

                   ③糖尿病 ④喫煙 ⑤家族に心臓病を患った人がいる   

      ⑥善玉コレステロールが40mg/dl以下

 

 閉経前の女性は女性ホルモンによってHDLが高く維持されていますが、閉経後は急に総コレステロールが上昇、男性を上回ることがデータで示されていますので注意が必要です。

 

 ところで、総コレステロール、悪玉コレ、善玉コレ、中性脂肪との間の関係は次の通りになっています。

 

 総コレステ = 悪玉コレ+善玉コレ+中性脂肪 × 0.2 (注)

                            (注:中性脂肪が400以上の時は0.15)

 

  血液検査でこの4種類の値が全部出てくるのは稀で、最近では悪玉コレしかないのが多いです。3つあれば後のひとつは計算できますが、2つだと後の二つは類推で不正確になります。担当医にお願いしても、「今はLDLだけ見ていればいい時代だよ」で終わりです。さて、私の例でみてみましょう。数値は平均値です。

                                                                                                                                              

      体重  総コレ 悪玉コレ 善玉コレ 中性   動脈

                        脂肪  硬化指数

 41歳~53歳 71.2  172  (119)   31    108         3.8  

 65歳~70歳 67.7  149   106       38      95    2.8 

 71歳~74歳 54.8  160    89     46       63   1.9

 

悪玉コレの119は計算式による(この14年間なぜかLDLは計測されていなかった)

 

動脈硬化指数とはLDL/HDLで表され悪玉コレが善玉コレの何倍かを示す値で、要はコレステロールを配る車と回収する車の数の割合を示しており、小さいほど血管の掃除屋の割合が多いということを表しています。

 4以上は動脈硬化が進みやすく、血管の老化が早いということで、私の現役時代は結構危ない橋を渡っていたことになり、今にして思えば冷や汗ものです。食事療法で最近は動脈硬化指数が1.6ぐらいになってはきていますが「血管の記憶」というものがあるようなので、油断はできません。

 

 最近ある方との情報のやり取りの中でコレステロールに関してのものがありました。

普段の彼女の総コレステロールは140~150なのに最近の血液検査の結果、総コレが256、善玉コレが103とのことで総コレの値が急に高くなって心配しているというメールです。 中性脂肪の値がメールにないので正確に計算できませんが、悪玉値は156-103=153となり、153以下であることは確かですね。仮に中性脂肪を50mg/dlとすると悪玉コレは140位になり危険因子の数にもよりますが、許容範囲に入っています。それにHDLが103もあるので血管のコレステロールの掃除はいつもきれいにされているわけですから、過剰な心配はストレスが溜まります。それよりなぜHDLが急に100も上がったかの理由を見つけるのが先と思いますが、ご本人もそうおっしゃっていたので主治医と相談されるようでそれが一番です。

   (私はあくまで素人ですから、情報交換の立場はくずしていません。この項はご本人の希望で匿名で紹介の承諾を得ています)

 

 一方、血液検査の結果はいつも同じ値のもありますが、同じ検査項目でも検査機関が異なると結構上がったり、下がったり値が異なるので、できるだけ同じ医院で同じ検査機関で継続的に検査されることも必要かと思います。

 

 善玉コレステロールの基準は私が30歳代の時は20以上、40歳代は30以上が基準内でしたから多少安心していたきらいがあります。今は40以上ですね。そして、一般的には40~80が普通で、これは遺伝的なものらしく努力によっても80以上にはなかなか増えないと言われています。100mg/dl以上の人は長寿症候群の中でも極めて血管の老化が進まず一般の人より長く生きられると言われています。

 いずれにしても星野式ゲルソン食事法や済陽式食事法をされている方はコレステロールの問題は少ないと思います。ですから、この問題はむしろ配偶者の患者ではない男性の問題かもしれませんね。

  

 私の場合は70歳からの星野式ゲルソン食事療法やそれに続く済陽式食事療法により、悪玉コレと中性脂肪が減り善玉コレステロールが増え始めました。 

 最近の善玉コレは60位に増え、動脈硬化指数も1.6位になってはきています。

 

 そして血圧も60歳代後半の上180/下100が今では110/60となり、空腹血糖値も80mg/dl、肝臓の健康度を表すγ-GTPなどの3種類の指標も下限値で安定ており、今の私の悩みは頻尿とそれに由来する寝不足からくる集中力の欠如、物覚えが悪くなり、耳が少し遠くなったように感じてきたのが悩みの種です。

 

しかし、70歳で前立腺がんがわかったこと、ランチの会の影響で食事療法が深化し、その結果、重大な血管病の発症から救われた可能性は非常に大きいと確信しています。

 それによって、こうして元気に働けることに感謝して、ランチの会からもらったみんなが頑張っている仲間意識とよい習慣と連帯感でこれからもしばらく頑張って恩返しができたらいいなと思っています。

 

  参考文献                                                                                                              

 (1) コレステロール治療の常識と非常識 島巌 横手幸太郎 著 

                                                                                         角川新書  

 (2) 嘘をつくコレステロール        著 重松 洋 監修 

                                                                                         日経出版       

 (3) コレステロール・中性脂肪を下げるコツ              主婦の友社        

 (4)  血管を強くして突然死を防ぐ               池谷敏郎 著

                                                                                      すばる舎    

 (5) 一生切れない、詰まらない強い血管をつくる本 島田和幸著    

                                                                                         永岡書店