脳とブドウ糖 2015.05.15
脳は体重の約2%でしかないのに、全身が消費するカロリーの約20%も消 費する、きわめてエネルギー食いの臓器です。そんな脳ですから、エネルギー産生の元となるブドウ糖や酸素を運ぶ血流が3~4秒以上止まると失神が起こるようになり、さらに3~4分以上止まると脳死が始まるようになります。
脳は有酸素下でのみブドウ糖を代謝し(嫌気的解糖 ができない)、そのブドウ糖の供給源は肝臓に貯蔵されているグリコーゲンで、満タン状態で60gほどあります(血液中のブドウ糖は5gほど。)
筋肉中には120g程のグリコーゲンが貯蔵されてい
ますが、脳はこのグリコーゲンを利用できませんし、脳中にはグリコーゲンはほとんど含まれていません。
脳は一日120gのブドウ糖を消費しますから、肝臓内グリコーゲンは脳にとっての約12時間分に相当します。
体内でグリコーゲン、ブドウ糖をつくるための材料として最 大のものは食物中の炭水化物(糖質)ですが、この他に、ブ ドウ糖が筋肉で嫌気的に代謝されてできる乳酸、蛋白質が分解されてできる(糖原性)アミノ酸、さらに脂肪が分解されてできる脂肪酸のおよそ1割ほどのグリセロールが原料となり、肝臓でブドウ糖が合成(糖新生)されます。
(肉食動物は狩りの時に筋肉中のグリコーゲン を嫌気的解糖をして全速力で走行していると考えられますが、獲物である草食動物の体内中の炭水化物量は微量であり、肉食動物は獲物中の蛋白質から糖新生をして筋肉グリコーゲンをつくっていると考えられます。
蛋白質からブドウ糖をつくるの はエネルギー的には非効率であり、肉食動物は草食動物より非効率な生き方で生存できているわけです)。
脳は通常はブドウ糖のみをエネルギー源としており、筋肉の
ように脂肪酸を利用することはできませんが、ブドウ糖の供給が少なくなってくると、ケトン体も利用するようになります。
ケトン体はβ-ヒドロキシ酪酸とアセト酢酸(とアセトン)からなり、脂肪が分解されてできる脂肪酸と蛋白質が分解されてできる(ケト原性)アミノ酸からつくられます。
絶食が12~16時間続くと、脳はこのケトン体を著明に取り入れるようになります。
では、さらに絶食が続くとどうなるかというと、三人の肥満し た人が38~41日間絶食した時の研究では、脳 のエネルギー源の30% ほどがブドウ糖、60%ほ どがケトン体(β-ヒドロキシ酪酸+アセト酢酸)になっていました。
ここで注目すべきことは、炭水 化物の摂取がまったくない状態でも、脳のエネルギー源は100%ケトン体ではなく、30%ほどがブドウ糖(そのブドウ糖は、蛋白質や脂肪酸 の分解産物から糖新生されたもののはずです) になっていることです。
その理由をわたしは知りませんが、おそらく、筋肉はエネルギー源として脂肪酸やケトン体を利用できるが、それはミトコンドリア内で有酸素下で利用するものであり、緊急時の全力疾走のように嫌気的解糖をする場合にはやはりブドウ糖が必要であり、それに備え、体は常にブドウ糖を新生しグリコーゲンとして肝臓に貯蔵しているのだと思われます。